セル・トラップ~繊維の密度の違いで腫瘍細胞の動きを封じる
繊維密度と細胞移動の興味深い関係
細胞は生体組織中で「細胞外マトリクス」という繊維状の構造体に取り囲まれている。ここで,繊維の密度を変えてやると細胞の動きの速度が変わることを発見した。
細胞は細胞外マトリクスの繊維構造に沿って遊走し,これが癌細胞の転移や浸潤などのもとになる動きということがわかってきている。
密度が低い(疎な)繊維上では細胞の移動は素早く,逆に繊維密度が高くなってくると動きが遅かった。これには細胞が周囲の細胞外マトリクスと接着する場所と細胞の形状が密接に関連していることが示唆された。
セル・トラップ
さらに繊維の密度が端から端に変わっていく材料を作成したところ,繊維密度が粗なほうから密なほうには細胞が移動しやすいのに対して,密なほうから疎なほうには細胞が移動しにくいこともわかった。これは,細胞が移動する方向を一方通行にするための仕掛けを材料の設計によって作製できることを示す。
このしくみを,魚や昆虫を採取するときに戻りにくくなる構造をいれた捕集装置をフィッシュトラップや昆虫トラップと呼ぶことになぞらえて,「セル・トラップ (Cell Trapping)」と名付けた。
材料の構造を使って細胞の動きを封じるというセルトラップのアイデアはこれまでになく,セルトラップ技術は癌細胞の浸潤や転移を抑制するための医療デバイス開発につながると期待される。