繊維の上での単一細胞の徒競走
ナノファイバー上での細胞遊走
ファイバー上での細胞の遊走挙動は興味深い。一本の微細ファイバーの上に細胞が接着しているとき,細胞は繊維の軸方向に沿って伸展し,移動する。本研究では,このプロセスを細胞の移動速度の評価に用いた。
ポリスチレンで作製した一本の微細ファイバーの上に,いくつかの種類の腫瘍細胞を接着させる。この細胞の移動速度を定量すると,腫瘍細胞の浸潤性に応じて異なることがわかった。
細胞の遊走性を測定する一般的な手法はいくつかある。たとえばWound healing assayはコンフルエントに培養した細胞の一部を剥がし,どのぐらいの速度でその「傷」が埋まるかを見る手法である。またTranswell assayは,孔の空いたポリカーボネート膜の表面に細胞を培養し,裏側にどのぐらいの細胞が 移動したかを見る手法である。
これらの手法と比較して,微細ファイバーを使った本手法は,生体中の環境をきわめてよく模倣していることが特徴である。細胞は細胞外マトリクスと呼ばれる繊維状の構造体に取り囲まれているが,微細ファイバーで構成された今回の基材は,生体中の細胞の生理活性をよく再現している。また,単一の細胞の移動プロセスを見ることができるため,移動中の細胞の内部でどのようにタンパク質が発現しているかも見ることができる。
膠芽腫の浸潤
脳腫瘍の一種の膠芽腫(グリオブラストーマ, GBM)はその浸潤性から悪名高いがんである。腫瘍組織から周辺の細胞に広がっていくために,手術で除去し切ることが難しく,予後が非常に悪いことが知られている。
この細胞の遊走性を,他の悪性の腫瘍細胞(胃がん,大腸がん,乳がん)の細胞と比較した。その結果,従来法では差が見られなかった細胞と比較して,とくにGBM細胞は非常に高い移動性を示していた。