凍結・融解の繰り返しで作成する繊維状ハイドロゲル

 ポリビニルアルコール (PVA) ハイドロゲル


PVAは洗濯のりや増粘剤など,日常的にも広く使われるポリマー。分子鎖間に架橋を入れることで網目構造が形成されハイドロゲルになる。結晶化しやすいポリマーでもあり,うまく結晶構造をいれることでもゲルは得られる。


結晶化を促進させる方法で従来からよく知られている方法としてPVA水溶液の凍結融解を繰り返す手法がある。水溶液中の水分子との相互作用を介して,PVA側鎖の水酸基同士が会合し,結晶化が促進される。こうしたゲルをクライオゲルと呼ぶ。クライオゲルは,水以外の添加物を必要としないので,生体に安全な架橋方法として利用されている。


クライオゲルナノファイバー


エレクトロスピニングで作成したPVAナノファイバーも同様にクライオゲル化させることができれば,ナノファイバー状のハイドロゲルが得られ,医療材料としての応用が期待される。しかし,ナノファイバー中に含まれる水の量はごくわずかで,クライオゲル化はできなかった。


ここで安全な第三の成分としてグリセロールを添加する。グリセロールは1分子中に水酸基を3つ有する最小の糖である。グリセロールを添加したPVAナノファイバーは,凍結融解を繰り返すことで,繊維形態を損なわずにクライオゲル化されることをはじめて発見した。この材料を使えば,これまで困難だった「異方性」を有するPVAハイドロゲルを作成することができ,たとえばハイドロゲルステントなどにも利用できると期待される。




参考文献


Y. Nagakawa, M. Kato, S. Suye, S. Fujita, Fabrication of tough, anisotropic, chemical-crosslinker-free poly(vinyl alcohol) nanofibrous cryogels via electrospinning, RSC Adv., 10, 38045-38054 (2020) http://dx.doi.org/10.1039/d0ra07322a